暴力団離脱者のうち,就職できた人の割合は3%といいます。
一度ホームレスになると,住所がないから職が見つけられない,職がないからお金がない,お金がないから家を借りられない,といった負のスパイラルに陥ってしまい,そこから抜け出すのは困難になりますが,同じようなことが「暴力団離脱者」の間でも起きているようです。
この手の話題になると,「自己責任」「家が貧しくても立派になった人はいる」という意見で片付けられてしまうこともあります。ただ,本書を読むと,本当に同じ日本なのだろうかという境遇で育ってきた人のケースも見られ,一時,道を踏み外した人を断罪することには違和感を覚えます。
『だからヤクザを辞められない』では,暴力団離脱者の実態,彼らが暴力団に入るきっかけや辞める理由,そして離脱支援の重要性が説かれます。
また,本書では,暴力団だけでなく,その衰退とともに台頭してきた「半グレ」についても言及します。目立ちたがる(ことが多い)暴力団と比べると,(その犯罪の特徴から)匿名性を好むのが半グレです。中には,目立ちたがる人もいるようですが,やはりその後に逮捕されていました。
余談ですが,「半グレ」というキーワードで外せない溝口敦さんの著作からの引用もあるので,溝口敦さんの著作に親しんでいる方も楽しく読めると思います(僕もそのひとりです)。
「おれの家は,親父が指名手配犯やったんですわ。せやから,あちこち逃げ回る生活でしたんや。おれが小学校に上がる前の年に死にまして,オカンはおれを連れて,郷里に帰ってきたんです。そんとき,オカンの腹には妹がいてましたんや。(中略)
小学校3年位に,おれみたいな仲間とスリ団つくって,電車専門のスリやりました。腹減ったら,デパ地下の試食食いまくりです。そないことばっかしてますと,何度もポリの厄介になるわけですわ。小学校で,新聞にも載った位ワルさしてましてん。子どもの頃は,アオカン(野宿),児童相談所(児相),教会の養護施設のどれかにおったような気がします。
これは,本書に登場する元暴力団のひとりです。一部を読んだだけでも,大半の人とは境遇が違うのではないでしょうか。もし,自分が小さい頃,性格を形成するときに似たような境遇だったら,どうなっていたのかなと考えると,かんたんに責められないと感じました。
本書のテーマのように,暴力団の中には離脱する人がいます。
しかし,前述のように,暴力団を離脱しても5年間は銀行口座の開設ができない,携帯電話の契約ができない,家も借りられないのが現実です。そして,何もできないからこそ(仕事もできない),また元の場所に戻ってしまう例も少なくありません(本書にも登場します)。
著者である廣末 登(ひろすえ・のぼる)さんは,本書のほかに『ヤクザになる理由』などの著書がある,犯罪社会学を専門にしている方です。僕はネットで見かけた記事「「携帯は禁止、銀行口座もダメ」行き場のない元ヤクザは、犯罪者になるしかない」がきっかけで本書を知りました。
本書にも,これから自分たちはどのようにしていくと良いのか(セカンドチャンスを認める)が書かれています。今,少しでも自分に余裕がある人は,ぜひ考えたいテーマのひとつと言えるでしょう。
書名 | だからヤクザを辞められない |
著者 | 新潮社 |
出版社 | KADOKAWA |