昭和という時代を駆け抜けた人の自伝は面白い。
今回はそんなひとり,志村けんさんの自伝『変なおじさん』を紹介します。
志村けんさんといえば,日本を代表するコメディアンです。そして,数多いコメディアンの中でも意外なほどプライベートが謎に包まれているひとりと言えるでしょう。僕は,みんなにさらけ出しているようで実はよくわからないという人が大好きです。
芸人さんの中には,家族の話はするけれど恋愛の話はしない,恋愛の話はするけれど家族の話はしないなど,明確に線を引いている人がいます。たけしさん,さんまさん,タモリさんなどもこれらに当てはまりますよね。そして,志村けんさんも意外なくらいプライベートがわからない人です。
『変なおじさん』は,そんな志村けんさんの自伝です。
(本書は『変なおじさん』『変なおじさんリタ〜ンズ』の合本です)
本書は,プライベートをあまり語ることがなかった志村けんさんのことがわかる一冊です。ということで,とにかく見どころが多いのが特徴です。
生い立ち,ドリフターズ,『加トケン』『だいじょうぶだぁ』『バカ殿様』,お笑い,そしてプライベートなことなまで触れています。
志村けんさんを知るために,本書と合わせていかりや長介さんの自伝『だめだこりゃ』も読むと,異なる視点から立体的に知ることができます(これぞ自伝の醍醐味ですよね〜)。
志村けんさんと言えば,音楽の造詣が深いことでも知られます(映画もです)。お笑い番組の構成をつくるときも音楽(とりわけレコード盤)に絡めて構成するといった話を出てくるので,音楽が好きな人(というより全体の構成を考えるのが好きな人)も興味深く読めます。
僕は,自分たちが本当にやりたいこと,これを見て欲しいというのを,番組の頭できっちり見せておかないと気がすまないタイプだ。メインのコントをつくるのに,一番時間をかけて,考えたり撮ったりしているわけだから,それをちゃんと見て欲しい。あとは手を抜くわけじゃないけど,少し違った笑いを見せましょう,という考え方だ。1時間の番組全部に力を入れてつくるのは時間的に無理だし,実際の問題としてできっこない。
まさに音楽作品(レコードやCD)の構成ってこんな感じですよね。
本書の後半では,「自分のこと」という章があります。ここでは,結婚観,子供,料理,音楽など志村けんさんのプライベートなことが綴られます(僕がもっとも好きな章のひとつです)。
僕は時間にルーズな人は大嫌いだ。
待ち合わせの約束をしても,たいてい僕が早く行って待っている。
仕事でも,時間に遅れるのが一番嫌。
たとえ渋滞に巻き込まれたにしても,嫌だからなあ。
だから,いつも20,30分早めに着くように支度をして出かける。
こういうのは,テレビの中の「志村けん」(敬称略)を見ているとわからないことですよね。僕も読んでいて,失礼ながら意外だなあと思いました。
はちゃめちゃな時代を生きてきた人の話は本当に面白いです。酒を飲んで女(失礼)を追いかけて,そのために仕事をする,シンプルなようで今の時代では難しいことを教えてくれる一冊です。
書名 | 変なおじさん |
著者 | 志村けん |
出版社 | 新潮社 |