木下斉さん(@shoutengai)の現実を見据える視点が好きです。「狂犬」の名前のとおり,鋭い視点で「東京」と「地方」の理想(メディアが好む美談)と現実を鋭く届けてくれます。
今回は,そんな木下斉さんの新著『まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか』について書いていきたいと思います。
本書は「自分でやりたい人」向けです。しかも,「他人のカネ」ではなく,自分で身銭を切ってやれるという人向けです。
他の地域の成功事例などわかりやすい答えなどを求め,自分は何一つ失敗もせず他人のカネを使ってやれることはないか,と考えるような「思考の土台」がある限りは,失敗が続きます。
まさにこの言葉です。反対に「会社のカネ〜」はもちろん,「ウチの会社はここがダメ〜」と他人を否定するだけで自分は何も動けないという人は要注意です。この部分でグサッと刺さったり,痛いところを突かれて怒ってしまった人は,本書は向いていないかもしれません。
本書では,現実(メディアが好む幻想を取り払った)のあと,失敗する要因,そして木下斉さんが考える「すべきこと」で構成されています。
たとえば,失敗する原因には次のものがあげられています(第3章より)。
- 「成功者」を収奪者だと思い込む人
- みんなで力を合わせ,頑張れば成功するワナ
- 地域を変えるのは「よそ者・若者・馬鹿者」という言い訳
木下斉さんの著作に度々出てくる地方の権力者,見ているだけでイライラします(笑)。
また,本書では,学ぶことの大切さについても改めて知ります。
かつて現状の問題点を指摘し,自ら変革を行っていた若者・中堅の人が,歳を重ね,地元の有力者になると,いつの間にか「まちづくり幻想」に囚われ,むしろ地域の状況を悪化させていく主体者になってしまうという事象を多く目にします。
これって,まちづくりだけではなく,普通の会社でもよく見聞きしますよね…。
だからこそ,組織の外で多様な接点を持ち,適切な学習時間を確保し,学び続ける必要があるのです。特に意思決定をする年代になれば,上司も限られるようになりますから,間違いすら指摘されなくなり,とんでもない決定を下してしまったりするのです。
「えらくなったら勉強しなくていいなんて幻想は捨てて,「えらいからこそ,誰よりも勉強しなくてはならない」のです。
「勉強しなくてはならない」ということが説かれる自体,信じられない気もします…。
木下斉さんがよく触れることのひとつに「無料」の害があります。
タダでもらってありがたいというだけか,下手するとタダなのに文句をいうタカリすら現れます。単に安いという経済的メリットを受けられるから集まるだけで,お金で人気を買っているにすぎません。
本書では,「さんま祭り,ホタテ祭り,うに祭り」などがあげられていますが,なかなか危険ですよね。ちなみに僕は,目黒のさんま祭りをよく見ていたので(白金台の近くなのです),「ここに数時間並ぶんだ…」と思っていたのを覚えています(時間の価値よ)。
そして,前述の「他人のカネ」を狙う典型例がハイエナコンサルタントです。
この巨額のお金(※新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金)の活用を巡って,全国各地の自治体関係者には「提案したことがあるから時間が欲しい」といった連絡が,東京のコンサルティング会社などから相次ぎ,今も続いています。
本文の言葉を借りれば「悪質な外の人」以外何者でもありません。
本書の最後には,これから僕たちがすべきこと「先駆者のいる地域にまずは関わろう」「まちを変えるのは常に『百人の合意より,一人の覚悟』」といったものがあげられています。
自分が動くことの大切さ,どの分野においてもこれしかありません。
書名 | まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか |
著者 | 木下斉 |
出版社 | SBクリエイティブ |