『沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史』これまで聞いたことがなかった「小文字」の物語

書評

沖縄について書かれた本についての違和感。これを上手く表しているのがこの文です。

沖縄についてはこれまで夥しい数の本が書かれてきた。だが私から言わせれば,ほとんどが”被害者意識”に隈取られた”大文字”言葉で書かれており,目の前の現実との激しい落差に強い違和感をおぼえる。

ここでいう「大文字」言葉とは,「聞いたときにはわかったような気にさせるが,あとから考えると『So what?』という疑問がわく言葉」だといいます。

もう少しかみくだいた表現にすると,「テレビに登場するコメンテーターが口にする一見もっともらしい発言は,だいたい「大文字」言葉だと思って間違いない」です(本文より引用)。

少しズレますが,僕はタモリさんの「どうでもいい話題をじっくり掘り下げていくと,やっぱりどうでもいいんだよね」という言葉を思い出しました(笑)。

これで「わかる!」と思った方は,『沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史』はハマるでしょう。

沖縄本(といってももちろん観光ガイドではない)だと,『沖縄と私と娼婦』(佐木隆三),『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』(藤井誠二)あたりを好む人は相性が良いはずです。

 

本書は上下巻のボリュームの文庫本(単行本は1冊)で,5つのジャンルから構成されています。

  1. 天皇・米軍・沖縄県警
  2. 沖縄アンダーグラウンド
  3. 沖縄の怪人・猛女・パワーエリート
  4. 踊る琉球,歌う沖縄
  5. 第二の”琉球処分”

少し補足すると,「沖縄アンダーグラウンド」は,戦後沖縄ヤクザなど暴力団関連です。「沖縄の怪人・猛女・パワーエリート」は,(あまり表立つことはない)沖縄の財界人にスポットライトをあてたものです(すごい裏側を見てしまったような気がします…)。

 

僕が,本書でもっとも興味深かったのは,「沖縄の怪人・猛女・パワーエリート」です。観光地としての沖縄の代表ブランドである「オリオンビール」も違う角度から知ることができます。

沖縄を代表するゼネコンをつくった國場幸太郎(國場組)や大城鎌吉(大城組)と並んで沖縄四天王の一人に数えられるのは,オリオンビールを創業した具志堅宗精である。

具志堅氏(1896〜1979年)は,警察官を経て,赤マルソウ具志堅味噌醤油合名会社(元は弟が経営していた)を設立,オリオンビールを創業したのは1975年です。この時点で60歳を超えていたというのだから驚きです。当時の寿命を考えてもすごいことですよね。

 

また,「カプセルホテル怪死事件」では,どこまで真実なのか,どこから伏せられているのかわからない事件についてのルポタージュがされています。

私が沖縄入りした丁度1週間前の1月18日,当時,世間をにぎわせていたライブドア社長のホリエモンこと堀江貴文との関係が取り沙汰されていたエイチ・エス証券副社長の野口英昭が,投宿先の那覇・国際通りのカプセルホテルの一室から瀕死の状態で発見され,間もなく息を引き取る怪事件が起きていた。

本事件については,これまで読んできたなかでもっとも詳しく書かれていました。

 

本書の著者は,ノンフィクション作家・佐野眞一さんです。最近だと,孫正義さんについて書かれた『あんぽん 孫正義伝』などが有名です(←これも面白かった)。

 

『沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史』は上下巻だけあり,読み応えがある一冊ですが,沖縄の裏側に興味がある方ならまず楽しめるだろう一冊です。やっぱりすごいぞ,佐野眞一さん。

 

書名 沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史
著者 佐野眞一
出版社 集英社

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