『ヤンキーと地元』は,10年以上に渡って沖縄の暴走族やヤンキーの調査をした記録です。
と聞くと,普通のルポのように感じますが,本書が異常なのは,実際に彼らの仲間に入り,彼らと打ち解け,彼らと同じように建設会社で働き,週末を過ごしている点です。
『沖縄アンダーグラウンド』の著者である藤井誠二さんが「上間陽子の『裸足で逃げる』と対になる作品だ。」というコメントを寄せていることからもわかるように,沖縄に生きる人のうち,女性を描いたのが『裸足で逃げる』,男性を描いたのが『ヤンキーと地元』とも言えるでしょう。
その上間陽子さんもまた,著書の中で次のように述べています。
風俗業界に出入りする調査は,打越正行さんとでなければできないと思った。沖縄の暴走族の若者をほぼ網羅し,かれらと一緒に沖縄の主要道路58号線を走る打越さんの調査はすさまじかった。
沖縄関連の本は,どこかがつながっているのも楽しかったりします。
前述のように,本書は沖縄の現実を外側から描いたものではなく,内側から描いています。
もちろん,知らない人がいきなり仲間に入るのは容易ではありません。「メンバーにしてください」と頼み込んでも入れるわけもなく,駐車場で飲み明かす中で徐々に打ち解け,暴走族のパシリになるところからはじまり,ゴーパチ(国道58号線。沖縄の主要道路)を駆け抜けるようになります。
幼い頃から彼は,覚せい剤と買春斡旋以外なら何をしてもいいから「一人で稼いで生きていけ」と父親に言われてきた。それは経済的な援助はできないと暗に伝える言葉だった。実際,その手の支援はほとんどなく,自力で生活基盤を築かなくてはならなかった。若くしてセクキャバのオーナーとなった彼は,父親から「やるなあ」と褒められるまでになった。
これまで「沖縄の夜」というと,女性側(従業員)の視点から描かれることが多かったですが,本書では男性側(経営側)のシビアな現実がわかります。
本書は,沖縄書店大賞・ 沖縄部門大賞受賞作品です。僕が本書を知ったのも,那覇の書店で受賞作品として陳列されていたからです。沖縄書店大賞のうち「沖縄部門」(2018年度までは「郷土書部門」)は沖縄関連の本なので,興味がある方は合わせてチェックするのをおすすめします。
書名 | ヤンキーと地元 |
著者 | 打越正行 |
出版社 | 筑摩書房 |